「ヴィブラート」に関する理論──ボイストレーニング論その九

ボイストレーニング論第九回です。前回に引き続き、今回も「ヴィブラート」の話です。前回は「ヴィブラート」の種類について書きましたので、今回は理論的な話をします。

「ヴィブラート」は「ビブラート」と表記されることが多いでしょうが、原語がvibratoですので、それを尊重して「ヴィブラート」と表記しています。

※ボイストレーニング論は全十五回です。「裏声を練習すればミドルボイスが身につく?」「ミドルボイスって地声? 裏声?」「ミドルボイスの音源が聞きたい」そんな方はぜひお読みください(全記事一覧は、カテゴリ「ボイストレーニング」か、記事「ボイストレーニング論」参照)。

※当ボイストレーニング論では「地声」「裏声」×「チェストボイス」「ミドルボイス」「ヘッドボイス」の2×3=6「声区」論を提唱しており、それを前提に論を展開しています。詳しくは第三回第四回第五回をご覧ください。

ボイストレーニング論その九の要旨

  • 「ヴィブラート」は音量の変化と音程の変化によるものだが、実際には両方起こっていることが多く、厳密に区別するのは難しい。
  • 「ヴィブラート」は物理学的には、「ヴィブラート」の始端・振幅・基準音からの高低・周期の観点から分析される。

目次

音量「ヴィブラート」と音程「ヴィブラート」の区別

前回、「ヴィブラート」には音量の変化によるものと、音程の変化によるものとがあると述べました。

それは正しいのですが、音量「ヴィブラート」と音程「ヴィブラート」を厳密に区別するのは難しい、という現実があります。声量が一切変化せず、音程だけが変化する「ヴィブラート」をかける人は稀ですし、逆も然りです。

顎・喉仏・喉の筋肉など、「ヴィブラート」のかけ方に種類があり、種類ごとに声量・音程の変わり方が違うのは事実ですが、大抵は声量も音程も変化する「ヴィブラート」になるのです。

そこで、今回は音量「ヴィブラート」と音程「ヴィブラート」を区別せず、まとめて論じることにします。

「ヴィブラート」に関する物理学的考察

「ヴィブラート」を音の波の一つと捉えると、「ヴィブラート」を以下の四つの要素に分解できます。

  1. 波の始端(「ヴィブラート」をどこからかけ始めるか)
  2. 波の振幅(「ヴィブラート」の音程・音量の上下を大きくするか、小さくするか)
  3. 波の基準音からの高低(基準の音に対し、「ヴィブラート」の音程をどれだけ変化させるか)
  4. 波の周期(「ヴィブラート」の波の周期を大きくするか、小さくするか)

1. 波の始端

歌声の中で、どこから「ヴィブラート」をかけ始めるかによって、「ヴィブラート」の印象は変わってきます。

【ニコニコ動画】ハローの涙 田中昌之

たびたび紹介する田中昌之「ハローの涙」です。

例えば、1:09「あの時も」、1:35「日々」、1:53「hello」などは、歌詞を発音した後すぐに「ヴィブラート」をかけています。

一方、2:09「止めて」、2:15「愛を感じて」、5:02「愛じゃなかった」などは、歌詞を発音した後、「ノンヴィブラート」によるロングトーンを続けた後で「ヴィブラート」をかけています。

別の例を挙げてみましょう。T.M.Revolution「Vestige」です。

冒頭の0:17付近は、すぐに「ヴィブラート」をかけているものばかりですが、0:34「血を流す掌」では、「ら」を発音した後、少し「ノンヴィブラート」で伸ばし、0:35から「ヴィブラート」をかけています。

「ヴィブラート」の始端

私の下手な図ですが、上の図をご覧ください。

これは、Dの音程を発声したときの三種類の「ヴィブラート」を描いたものです。黒い線がDの音程を表しており、赤線が「ヴィブラート」による音程の変化を表します。なお、Dの音程を選んだことに他意はなく、CでもGでもAでも何でも構いません。

上の図は、歌詞発音後にすぐ「ヴィブラート」をかけたものです。波の始端から「ヴィブラート」がかかっています。

下の図は、歌詞発音後、少し「ノンヴィブラート」で伸ばし、途中から「ヴィブラート」をかけたものです。左の始端から直線になっている赤い線が、「ノンヴィブラート」で伸ばしたロングトーンを表し、途中から波線になって「ヴィブラート」がかかるわけです。

このように、歌詞を発音した後すぐに「ヴィブラート」をかけるか、発音した後、「ノンヴィブラート」で少し伸ばしてから「ヴィブラート」をかけるかで、「ヴィブラート」の効果が変わってくるわけです。

2. 波の振幅

「ヴィブラート」の大きさに関する話ですね。パヴァロッティの「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」を例に説明します。

序盤の0:30の「ヴィブラート」、1:25や1:39のやや大きめの「ヴィブラート」、2:05の小さめの「ヴィブラート」、盛り上がりが最高潮に達した2:40の「ヴィブラート」を聞き比べてください。「ヴィブラート」の音程や声量の変化に差があることが分かるでしょう。

「ヴィブラート」の振幅

先の図と同じくDの音程を発声したときの「ヴィブラート」を描いたものです。黒い線がDの音程を表しており、赤線が「ヴィブラート」による音程の変化を、青の矢印線は波の振幅を表します。

ご覧になれば分かりますが、一番上の図が最も振幅が小さく、一番下の図が最も大きくなっています。静かに歌い出すときは前者を、ドラマチックに歌いあげるときは後者というように、色々な使い分け方があるでしょう。

3. 波の基準音からの高低

これは適切な音源が見つからないので、図のみで説明します。

「ヴィブラート」の高低

今までの図と同様、Dの音程を発声したときの「ヴィブラート」を描いたものです。黒い線がDの音程を表しており、赤線が「ヴィブラート」による音程の変化を表します。

一番上は、基準音Dに対して、「ヴィブラート」をDよりも下の音程にかけています。一番下はDよりも上の音程にかけており、中央は上下にバランスよくかけています。

ヴァイオリンに詳しい人はご存じかもしれませんが、「ヴィブラート」は基準の音程よりも下にかけなくてはならない、という説があります。

  1. 人間は高い音のほうに敏感なので、基準の音程よりも上にかけてしまうと、音程が上ずって聞こえる。
  2. 基準の音程よりも下にかければ音程のずれが目立たないので、下にかけるべきである。

という理由だそうです。図でいうと、一番下の図の「ヴィブラート」が1番、一番上の図が2番に該当します。

これはヴァイオリンの話ですが、この説が正しいとすると、「ヴィブラート」は一番上の図のように、音程よりも下にかけなくてはならないということになります。

ただ、最近ではこの説が批判されています。「ヴィブラート」を下にかければ音程が下がっているように聞こえてしまう、上下にバランスよくかけるのが最適なのだ、という意見です(詳しくは指導上ヴィブラートを下に掛ける事は優位性があるのか?ヴィブラートのかけ方について その2など参照)。

私見では、基本的には上下にバランスよく「ヴィブラート」をかけていれば十分ではないかと思います。

なお、ビブラート波形の可視化データ集というサイトにて、三大テノールのパヴァロッティとプラシド・ドミンゴとホセ・カレーラス三人のビブラート波形が掲載されています。これを見ると、基本的には「ヴィブラート」を上下にかけているのですが、歌が盛り上がったときなどは、上にかけていることもあります。別に三大テノールを真似る必要もありませんが、参考にしてみるとよいでしょう。

4. 波の周期

「ヴィブラート」の周期

Dの音程を発声したときの「ヴィブラート」を描いた図です。黒い線がDの音程、赤線が「ヴィブラート」による音程の変化、青の矢印線は波の周期を表します。

上の図の「ヴィブラート」だと、「ヴィブラート」は大らか(?)なものになるでしょうし、下の図だと小刻みな「ヴィブラート」になるでしょう。

前回も紹介しましたが、この小刻みな「ヴィブラート」をよくやるのが、西川貴教とGacktです。上の「粉雪」カバーをお聞きいただくと分かりますが、ほぼすべてが小刻みな「ヴィブラート」です。

今回で「ヴィブラート」の話を終えます。次回からは、ボイストレーニング理論の比較考察の話に移ります。

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