「ヴィブラート」とは何か──ボイストレーニング論その八

ボイストレーニング論第八回です。今回は「ヴィブラート」について説明します。

「ヴィブラート」は「ビブラート」と表記されることが多いでしょうが、原語がvibratoですので、それを尊重して「ヴィブラート」と表記しています。

※前回と同様、今回も掲載した音源が多いので、読みこみが遅くなると思われます。少しお待ちください。なお、動画は外部サイト(YouTubeやニコニコ動画)にアップロードされたものを掲載しているため、動画が削除されると視聴できなくなります。定期的に削除確認や動画差し替えは行っていますが、もし視聴できない動画がありましたらご報告いただけますと幸いです。

※ボイストレーニング論は全十五回です。「裏声を練習すればミドルボイスが身につく?」「ミドルボイスって地声? 裏声?」「ミドルボイスの音源が聞きたい」そんな方はぜひお読みください(全記事一覧は、カテゴリ「ボイストレーニング」か、記事「ボイストレーニング論」参照)。

※当ボイストレーニング論では「地声」「裏声」×「チェストボイス」「ミドルボイス」「ヘッドボイス」の2×3=6「声区」論を提唱しており、それを前提に論を展開しています。詳しくは第三回第四回第五回をご覧ください。

ボイストレーニング論その八の要旨

  • 「ヴィブラート」は、顎を揺らすもの・喉仏を揺らすもの・喉の筋肉を揺らすものに大別される。それぞれ音程の揺れ方・かけ方が異なる。
  • 横隔膜でかける「ヴィブラート」などというものは存在しない。
  • そもそも「ヴィブラート」をかけるべきか否かは意見が分かれる。「ヴィブラート」を一切かけない「ノンヴィブラート」も存在する。

目次

「ヴィブラート」に関する議論の難しさ

「ヴィブラート」(「ビブラート」)は、議論するのが非常に難しい概念です。というのも、「ヴィブラート」は歌手やジャンルによって違うからであり、どれが良い、どれが悪いとは一概にいえないからです。

もちろん、自然・不自然な「ヴィブラート」とかはあるでしょうが、それもまた歌唱技術の一つとして認められるべきかもしれません。とすると、何が正しくて何が誤りなのかが分からなくなってくる。

また、「ヴィブラート」に似た概念として、演歌の「こぶし」がありますが、これは「ヴィブラート」とは違うのか、という議論もあります。これに対して、私はまだ納得できる回答を見つけておりません。

「ヴィブラート」はまだ研究途上であり、判明しない部分も多い分野です。そこで、今回は現段階で分かっていることまでを説明します。

「ヴィブラート」の定義

まず、「喉ニュース」の「喉が揺れるビブラートって正しいの?」「ボリュームビブラートとピッチビブラート」を参照しながら、「ヴィブラート」の定義を確認しましょう。

まずは「喉が揺れるビブラートって正しいの?」から。

喉が揺れるビブラートには二種類あります。

一つはコントロールされているもので
もう一つは震顫(しんせん:自分の意思とは無関係に生じる律動的な振動)です。

これは「喉が揺れるビブラート」に限らず、「ヴィブラート」全体に当てはまる話でしょう。「ヴィブラート」をきちんと「コントロール」してかけているものと、かけようとは思っていないのに、勝手にかかってしまうものとがあります。

「喉ニュース」では「正しい・悪いはありません」とあります。確かに、勝手にかかる「ヴィブラート」で、よい「ヴィブラート」がかかる可能性もありますから、一概には否定できません。

しかし、「ヴィブラート」が勝手にかかってしまうのは、(結果的によいものがかかったとしても)よい状態ではないでしょう。「ヴィブラート」が「自分の意思とは無関係に生じる」とすると、「ヴィブラート」なしで歌いたい箇所なのに勝手にかかってしまった、という事態が起こりかねません。こうなると、単に発声的によくないだけではなく、歌の表現にまで関わります。

というわけで、このボイストレーニング論では、前者の「コントロールされているもの」を「正しいヴィブラート」として扱います。そして、今後扱うのは、この「正しいヴィブラート」に絞ります。

次に「ボリュームビブラートとピッチビブラート」に移ります。この「正しいヴィブラート」には、「ボリュームビブラート」「ピッチビブラート」の二種類が存在するといいます。

「ボリュームビブラート」は、声の音量を操作してかけるもので、横隔膜を動かすことによって可能になるそうです。

「ピッチビブラート」は、声の音程を操作してかけるもので、声帯の伸縮によって可能となります。

私もこの意見に基本的には同意しますが、「ボリュームビブラート」が横隔膜によってかかるというのは、かなり怪しい説だと考えています。これは横隔膜でかける「ヴィブラート」とはにて説明します。

上記を元に「ヴィブラート」の定義をすると、「声の音量あるいは音程を、意識的に変化させることにより、歌声に変化をもたらすもの」となりましょうか。

「ヴィブラート」の種類

「ヴィブラート」のかけ方は歌手によって違いますが、大きく分けると、以下の三つになります。

  1. 顎を揺らしてかける「ヴィブラート」
  2. 喉仏を揺らしてかける「ヴィブラート」
  3. 喉の筋肉を揺らしてかける「ヴィブラート」

ちなみに、横隔膜でかける「ヴィブラート」というのが巷では話題にされますが、私は信憑性に欠けると考えます(詳しくは横隔膜でかける「ヴィブラート」とはで後述)。

三種類の「ヴィブラート」を、音源を交えながら見てみましょう。

1. 顎を揺らしてかける「ヴィブラート」

文字通り、顎を揺らすことによって「ヴィブラート」をかけるというやり方です。このやり方は、

  • 顎を揺らすことによって喉仏も上下し、声帯が伸縮して音程が上下する。
  • 顎を揺らすことによって口内の容積が変化し、声の共鳴が変化することによって声色が変化する。

という二つの効果があります。どちらかといえば、後者の効果が大きいように思います。顎を使ったビブラートなら簡単というページでは「音響ビブラート」とも呼ばれると説明されています。実際にそう呼ばれるのかは知りませんが、確かにそういう効果があります。

このやり方は音程や音量が正確に変化しにくく、不安定になりやすいので、「邪道」と批判されることが多いですね。視覚的にも声色的にも、美しいビブラートになりにくいのは確かです。

ただ、これをやっている歌手は何人かいます。例えば、デーモン小暮です。

ディープ・パープル「ハイウェイ・スター(Highway Star)」を、デーモン小暮がカバーしたものです。3:12や4:54で、顎を揺らしながら「ヴィブラート」をかけているのが確認できます。

デーモン小暮はこのビブラートをかけるのが常のようで、「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」の3:22でも顎で「ヴィブラート」をかけています。

あと、浜崎あゆみは、顎で「ヴィブラート」をかけていることで有名なのだそうです(私は浜崎に詳しくないのですが)。

分かりづらいのですが、3:20で顎を揺らしているのが分かります。浜崎はいつも顎「ヴィブラート」らしいので、他にも分かりやすい映像があるかと思ったのですが、意外とありませんでした。私の調査不足かもしれませんが。

海外だと、ホイットニー・ヒューストンが顎「ヴィブラート」をかけているそうです。

なお、顎「ヴィブラート」とは少し違うのですが、歌っている最中に感情が昂った(?)のか、顎を揺らして歌うことがあります。例えば、ちあきなおみ「朝日のあたる家」の4:07や、パヴァロッティ「誰も寝てはならぬ(Nessun Dorma)」の2:50などです。

あと、ハイトーンで名高いSteelheartのマイク・マティアビッチですが、彼は「ヴィブラート」をかけるときに顔全体が揺れる癖があります(以下の
2:20や3:15や3:50や4:48や5:12)。わざとこうかけているのか、これ以外の方法ではかけられないのかは分かりませんが、どのライブを見てもこのかけ方を発見できます。

2. 喉仏を揺らしてかける「ヴィブラート」

喉仏を上下に揺らしてかける「ヴィブラート」なのですが、顎「ヴィブラート」とは別の理由で、これもあまり推奨されません。喉仏を揺らすことによって、喉に力が入りやすいからでしょうか。あと、喉仏を動かすと喉声になりやすいという理由もあるでしょう。このやり方は、顎「ヴィブラート」に比べると音程の上下は正確になりやすいのですが、「ヴィブラート」が小刻みになりやすいという欠点があります。いわゆる「ちりめんヴィブラート」をかける人は、大体これだと思われます。

この喉仏「ヴィブラート」をかけている歌手は意外と多く、例えば往年の巨匠・尾崎紀世彦もこの「ヴィブラート」です。「ゴッドファーザー愛のテーマ」をお聞きください。

0:35「(来)る」、0:38「(あふれ)る」、0:42「が」、0:49「(出)す」、1:29「(見送ろ)う」など、随所で「喉仏ヴィブラート」を確認できます。他の曲だと、「また逢う日まで」の「何をしてるの」の「の」なども、「喉仏ヴィブラート」です。

(前回紹介した)沢田研二の「時の過ぎゆくままに」も1:12「からだ合わせる」で、岩崎宏美の「聖母たちの子守唄」も2:21「その」、2:24「夢を」で喉仏を揺らしています。

なお、確定したわけではありませんが、恐らく「喉仏ヴィブラート」ではないかと思われるのが、西川貴教やGacktです。

二人が「粉雪」をカバーしているのですが、要所要所で小刻みな「ちりめんヴィブラート」をかけています。

西川貴教の「ヴィブラート」は、0:33「粉雪」、0:41「すれ違い」、0:51「空」、0:52「のに」、0:56「吹かれて」、1:00「のに」などなど。Gacktも、1:10「など」、1:15「だろう」、1:19「それでも」、1:22「から」、1:27「たよ」、1:35「るんだ」など、まだ大量にありますが、いずれも小刻みな「ヴィブラート」で、「喉仏ヴィブラート」特有のものです。

なお、後で説明しますが、演歌で使われる「こぶし」という技術の多くは、喉仏を揺らすことによって行われます。ですから、「こぶし」とは「喉仏ヴィブラート」のことではないかと私は考えていますが、まだ結論づけたわけではありません。

3. 喉の筋肉を揺らしてかける「ヴィブラート」

喉の筋肉を使ってかける「ヴィブラート」です。といっても分かりづらいので、以下の動画を見たほうがよいでしょう。

声帯周辺の喉の筋肉が広がったり狭まったりしながら、「ヴィブラート」がかかっています。喉の容積を変化させることによって、共鳴を変えていると考えられるので、顎でかける「ヴィブラート」に近いでしょう。

この「ヴィブラート」は、視覚的に確認できないという点で、非常に厄介です。あくまで喉の中の筋肉が揺れているだけなので、喉の外の筋肉を見ても、揺れている様子が確認できないからです。この「ヴィブラート」をかけているかどうかを確認するには、顎や喉仏が揺れていないかどうかを見るしかないと思われます。

【ニコニコ動画】ハローの涙 田中昌之

前回も紹介した田中昌之「ハローの涙」ですが、1:35「日々」や2:01「I can’t」や2:10「止めて」の「ヴィブラート」では、顎や喉仏の動きは全く確認できません。詳しくは田中本人に聞くしかありませんが、恐らくこれが喉の筋肉による「ヴィブラート」です。

BBCの「What Makes a Great Tenor?」という番組です。21:09からグノー「ロメオとジュリエット」の「ああ、太陽よ昇れ(Ah, leve-toi soleil)」というアリアが始まるのですが、喉や喉仏の揺れは見られません(22:09から喉にズームアップするので、より分かりやすくなります)。

追記: 視覚的に確認できる「ヴィブラート」も存在するようです。ジョー山中「人間の証明」の8:13、11:32の喉の筋肉をご覧ください。

あと、この「ヴィブラート」は「ベル・カント唱法」を身につけたオペラ歌手などに多いと思われますが、詳しくは現在調査中です。

私事で恐縮ですが、私はこの「ヴィブラート」をかけることができます。顎も喉仏も一切揺らさずに、喉の中の筋肉だけを揺らしてかけます。喉の中の筋肉が凹凸して、容積が変化しているという感じがします。

私はこの「ヴィブラート」をある日突然かけられるようになったので、具体的なやり方を説明できません。「ヴィブラート」を身につけるため、腹筋でスタッカートの呼吸をする練習をしていたら、突然喉の筋肉が揺れ始め、「ヴィブラート」がかかったのです。それ以来、かけようと意識すれば、いつでも「ヴィブラート」がかけられるようになりました。メカニズムは、未だによく分かりません。

私が思うに、喉の筋肉とはパズルのピースのようなもので、そのピースがすべて綺麗にかみあったとき、喉の筋肉を自由に動かせるようになるのではないでしょうか。そのとき、喉の筋肉による「ヴィブラート」が自由にかけられるのではないか。ですから、正しい呼吸によって「ヴィブラート」が身につくというのは、あながち間違いではないと思います。

横隔膜でかける「ヴィブラート」とは

巷では「ヴィブラートは横隔膜でかけるもの」という説が盛んです。しかし、これはどういう意味なのでしょうか。

横隔膜とは、呼吸(特に腹式呼吸)の際、吸気のときに下がり、呼気のときに上がるものです。これと「ヴィブラート」にどういう関係があるのでしょうか。

いや、もちろん正しい呼吸(正しい横隔膜の動き)と「ヴィブラート」に関係があることは否定しません。横隔膜が正しく働いているなら、「ヴィブラート」も正しくかかるのかもしれません。しかし、それは横隔膜で「ヴィブラート」をかけているわけではないでしょう。

横隔膜は呼気のときには上がりますから、発声の最中は上がっていることになります。つまり、横隔膜が揺れることはありません。歌いながら揺らすことができる顎や喉仏や喉の筋肉とは違うのです。

高速で呼吸を繰り返しでもしない限り、横隔膜が揺れるということはないと思われるのですが、横隔膜で「ヴィブラート」をかけるとはどういう意味なのでしょうか。私には皆目わかりません。

この「横隔膜ヴィブラート」というのは、3番の「喉の筋肉でかけるヴィブラート」のことではないかと私は思っています。横隔膜で正しい呼吸ができるようになったとき、喉の筋肉も自由になり、「ヴィブラート」がかかるということではないか。

今回で「ヴィブラート」の話は終わりにする予定でしたが、まだ書くことがありますので、次回も「ヴィブラート」の話題を続けます。

補足1: 「ヴィブラート」はそもそも必要か

そもそも、「ヴィブラート」は必要なのでしょうか。

当然ではないかと思われるかもしれませんが、そうでもありません。「ヴィブラート」をかけない歌といのは結構あるからです。

例えば、グレゴリオ聖歌などでは、「ヴィブラート」をかけることはありません。全部がそうなのかは分かりませんが、ほとんどのものはかけないと思われます。これは、「ヴィブラート」による情緒的な表現よりも、「ノンヴィブラート」によるピュアな響きを目指すからだと考えられます。

同じような理由で、合唱曲でも「ヴィブラート」はかけないことが多いでしょう(これについてはいろいろ議論がありますが、詳しくは補足2: 合唱における「ヴィブラート」の是非にて考察)。

また、バロック期の古楽演奏でも、「ヴィブラート」をかけない「ノンヴィブラート」奏法が使われることがあります。これをよくやるのが、指揮者のノリントンやアーノンクールです。

「ヴィブラート」を上手にかけることができるのは、歌唱技術が高いことの一つとして扱われます。確かにそうなのですが、そもそも「ヴィブラート」をかけることが正しいのか、なぜ「ヴィブラート」をかけるべきなのかと問うと、答えに詰まります。

そうした「ノンヴィブラート」の奏法を鑑みると、単純に「ヴィブラート」がよいとはいえないことは理解しています。しかし、それでもやはり、(実際にかけるかどうかは別として)「ヴィブラート」をかけられないよりは、かけられるように練習したほうがよいと考えています。

これは第二回でも少し説明しましたが、「ノンヴィブラート」の歌い方を実践しているのはごく一部であって、ほとんどのジャンルでは「ヴィブラート」が使われていること。ポップスに限らず、クラシック歌曲でも、「ヴィブラート」を全くかけないことはまずありません。

「ヴィブラート」を語る際、「最近(18世紀当時)のヴァイオリニストはどこにでもヴィブラートをかけているが、ヴィブラートは神の欲する箇所にのみかけるべきで、むやみにかけるものではない」というレオポルド・モーツァルト(アマデウス・モーツァルトの父)の言葉がよく引用されますが、彼は「ヴィブラート」の乱用を批判しただけで、「ヴィブラート」をかけるなとは一言も書いていません。

ポップスやクラシックなどの西洋音楽由来のものに限らず、文楽や能楽・地唄などの日本由来の歌にすら、「ユリ」や「ナビキ」という、「ヴィブラート」に近い技術が存在します。もちろん、厳密には「ヴィブラート」とは違うのですが、歌声の音程や音量を変化させることは共通します。

竹本三郎兵衛・豊竹応律「艶容女舞衣」の「酒屋」です。1:14や1:52・2:09・2:34・2:44などなど、随所に「ヴィブラート」に近い技術が使われます。

「端唄」と呼ばれる三味線音楽でも、0:10・0:29・1:06・1:41・4:03などで「ヴィブラート」に近い音程の揺れが見られます。

能の「邯鄲」という演目の謡では、0:06や0:30や0:38や1:11で「ナビキ」がかかっています。「ヨワ吟(弱吟)」「ツヨ吟(強吟)」の二種類があるそうですが、どちらがどれなのかは私には判断できません。

日本や西洋以外に目を向けても、ビブラートとヨーデル 追記モンゴル民族音楽ミニ辞典を読むと、各地の音楽で「ヴィブラート」が使われていることが分かります。

つまり、こうした「ヴィブラート」的技術を一切使わない歌い方というのは、世界的にも歴史的にも少ないのです。「ヴィブラート」による感情表現が、歌においていかに重要視されるかが分かるのではないでしょうか。

もちろん、使いすぎもよくありませんが、全く使わないという立場は極端にすぎると私は考えます。

補足2: 合唱における「ヴィブラート」の是非

初めに断っておくと、私は合唱畑の人間ではないので、あくまで素人意見にすぎません。それをご承知の上でお読みください。

合唱においては、「ヴィブラート」をかけると声色の統一が図りにくいという理由から、「ノンヴィブラート」で歌われることが多いようです。

そして、これに対して色々と批判も出ています。例えば、松尾篤興「美声学ブログ」の「合唱で問題になるヴィブラートについて」では、合唱で「ヴィブラート」をかけないことの「ナンセンス」さを批判しています。その理由は、

  • 「ヴィブラート」をかけて声色が不統一になるのは「ヴィブラート」が不完全だからで、「ヴィブラート」そのものが悪いわけではない
  • 「ヴィブラート」をかけたら音色がおかしくなるというなら、皆が「ヴィブラート」をかける交響曲などは音色がむちゃくちゃになるはずである。だが、そんなことは現実に起こっていない。「ヴィブラート」のせいで音色がおかしくなるというのは杞憂である。

というものです。

私はこの意見に基本的に賛成します。「ヴィブラート」がかけられないというのは、音色的な問題というより、全員が「ヴィブラート」をかけられるとは限らないという制約の問題ではないかと思っています。一部の人だけが「ヴィブラート」をかけ、他の人がかけなかったら、それこそ音色が不統一になりますから、それなら「ノンヴィブラート」で歌おうということではないか。

ただ、少し疑問もあります。それ、楽器において成立する話を、歌声にも適用してよいのかということです。

もちろん、人間の声も楽器といえば楽器ですが、普通の楽器に比べ、人間の声は、人によって倍音も発音形態もまるで異なる複雑な楽器です。そんな複雑なものにおいて、楽器の話を適用できるのかという疑問があります。

適用できるのかもしれませんし、できないのかもしれません。実際に、合唱で「ヴィブラート」をかけて歌った音源を聞いて判断すべきなのでしょうが、そういう音源があまりないため、判断できないのです。

↑氷川きよし・都はるみ「浪花恋しぐれ」 3:53「(難波の)は」、3:56「(来)る」

都はるみと氷川きよしが、「こぶし」をかけながら歌った映像です。これは合唱ではなく演歌、しかも多人数でなく二人だけですが、これを聞いて、音色が乱れていると感じるか、意外と乱れていないと感じるかは、皆様にお任せしましょう。

補足3: 「こぶし」と「ヴィブラート」の違い

「こぶし」とは、演歌で使われる音程を揺らす技術ですね。これは「ヴィブラート」ではないのかと議論されています。

一つだけいえるのは、様々な演歌歌手の「こぶし」を見る限り、「こぶし」は喉仏を揺らしてかけられていることが多いということです。

↑ 秋元順子「愛のままで…」 1:59

↑ 氷川きよし「玄海船歌」 1:35「(玄界灘)だ」

もちろん、喉仏が揺れておらず、喉の筋肉でかけていると思われる人もいるので、一概にはいえません。例えば、ちあきなおみ「紅い花」の2:22では、喉仏が若干下がっていますが、揺れている様子はありません。

なお、坂本冬美の「演歌講座」というのがあるのですが、ここで、「こぶし」について解説されています。

〔2014年6月14日追記〕現在この動画は削除されています。他の動画サイトにも同じ動画がないため、視聴することができません。ご了承くださいませ。

「夜桜お七」の「花吹雪」という歌詞を例にとって、0:57で坂本冬美が「こぶし」を実演しています。が、これを見て、私は余計に混乱してしまいました。

この坂本の実演では、

  • 「吹雪」の「ぶ」で、「地声」と「裏声」を交互に出して、声色を変える
  • 「吹雪」の「き」で、「ヴィブラート」のように音程を揺らす

という二つの技術が使われているのですが、坂本は、一体どちらのことを「こぶし」と呼んでいるのでしょうか。

1:00で実演されている「ああ~ああ~ああ~ああ~」ですが、一回目の「あ」を「地声」で、二回目の「あ」を「裏声」で出して、まるでヨーデルのように声色を変えています。しかし、これは果たして「こぶし」なのでしょうか。

坂本の「夜桜お七」を聞いてみると、1:02「(血が滲)む」・1:19「(来ぬ人)と」・1:26「(同じこ)と」・1:37「白い花」あたりでは、「ヴィブラート」的「こぶし」が使われています。「花吹雪」は1:59と4:29なのですが、上記のような声色を変える技術は使われていないように見えます。他の音源も確認しましたが、同様です。

一説によると、「こぶし」とは装飾音に近いもので、三連符や五連符などの音の揺れのことをいうのだそうですが、これは怪しい説だと思います。上の音源をお聞きになれば分かるでしょうが、ロングトーンなどでかけられた「こぶし」の場合、明らかに装飾音ではなく、「ヴィブラート」に近い性質を帯びているからです。

というわけで、結局「こぶし」についてはよく分かりませんでした。もっと詳しく分かりましたら加筆します。

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「ヴィブラート」とは何か──ボイストレーニング論その八」への1件のフィードバック

  1. >横隔膜が揺れることはありません。歌いながら揺らすことができる顎や喉仏や喉の筋肉とは違うのです。

    横隔膜も筋肉です。安物ステーキの内臓肉は横隔膜です。
    「ちりめん」と呼ばれるビブラートは横隔膜の振動です。
    世の中には横隔膜でゆったりした深いビブラートをかけることができる人も居るようです。

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