宮城道雄「水の変態」を聞く

追記: 「宮城道雄『○○』を聞く」記事の目次です。

「春の海」「瀬音」「ロンドンの夜の雨」と、作曲家・宮城道雄の楽曲を紹介してきましたが、今回で最後に致します。他にも紹介したい曲はありますが、全部紹介すると、きりがないからです。

最後に紹介するのは、宮城道雄の処女作である「水の変態」という曲です。弱冠14歳で作曲したのですから、大したものです。

音源は色々ありますが、最初に聞くには、これが一番よいでしょうか。

これは「水の変態」の抜粋版です。作曲者・宮城道雄本人と、彼の弟子である宮城喜代子が演奏しています(1:21から歌が聞こえますが、宮城道雄の歌声です)。

先ほど「抜粋版」と書きましたが、この曲は、全編15分近くあります(「春の海」の倍以上です!)。しかし、いきなり15分の曲を聞くのは疲れると思いますので、6分11秒の抜粋版の音源を紹介しました。全編ある音源は、後でご紹介致します。

なお、同じく抜粋版で、7分3秒のものもあります(演奏者は吉原佐知子)。こちらは演奏者の映像つきですので、上の音源をお聞きいただいた後、こちらと比較してみてください(ちなみに、上の音源と違って、こちらは独奏です)。

抜粋版をお聞きいただいたところで、今度は全編の音源をご紹介します。

上で紹介した宮城道雄・宮城喜代子の演奏の全編です。曲のピッチやテンポが違って聞こえると思いますが、恐らく、レコードの回転数が多いために、ピッチやテンポが変化したものと思われます。

曲構成について

次に、曲の構成について説明しましょう。西洋音楽の三部形式に則っていた「春の海」に比べると、「水の変態」は伝統邦楽の形式を踏襲しており、少し複雑な構成になっています。

音源/構成 前弾 前唄 手事(1) 中唄 手事(2) 後唄
宮城道雄(抜粋版) (なし) (なし) 0:02~1:19 1:21~3:47 3:47~6:04 (なし)
吉原佐知子 (なし) (なし) 0:06~1:35 1:37~4:14 4:15~6:44 (なし)
宮城道雄(全編) 00:00~00:51 00:53~04:17 04:17~5:42 05:44~09:27 09:27~12:15 12:16~14:07

用語がいくつか出てきたので、その説明を加えつつ、構成の説明をしましょう。

まず、「春の海」などの器楽のみの曲と違い、「水の変態」には「唄」があります。西洋音楽に器楽曲と歌曲とがあるように、純邦楽にも器楽曲と歌曲があるわけですが、「水の変態」は歌曲に属するわけです。ちなみに、純邦楽では「歌」を「唄」と表記することがありますが、意味は同じです。

ただ、歌曲でも唄だけがあるわけではなく、器楽のみの演奏箇所があります。クラシックの歌曲やポップスの楽曲でも、インストゥルメンタルのみの箇所がありますが、それと同じですね。この箇所を「手事」と呼びます。

こんな具合で、歌のある箇所と器楽のみの箇所があるわけですが、歌の箇所は表にある「前唄」「中唄」「後唄」、器楽のみの箇所は「前弾」「手事」に該当します。

「前唄」「中唄」「後唄」というのは、「唄」の順番と考えれば分かりやすいかと思います。一番前にあるのが「前唄」、途中にあるのが「中唄」、後にあるのが「後唄」というわけです。

「前弾」(まえびき)ですが、これはいわゆる前奏・イントロを指します。これが存在せず、いきなり「前唄」から始まる曲も多いのですが、「水の変態」にはこれが存在するわけです。

「手事」は、「手」(器楽)のみで構成される「事」(演奏)という意味です。純邦楽では、器楽のフレーズや奏法などを「手」と表現します。例えば、難しい箇所があるとき、「ここの手は難しい」などというわけです。

少し複雑になってきたので、もう少し分かりやすく説明しましょう。

  • 前唄
  • 手事
  • 後唄

純邦楽の歌曲には色々ありますが、多くの楽曲は、上の三つの要素から成り立ちます。「前弾」も「中唄」も存在せず、「手事」も一つだけです(中には、「手事」すら存在しない曲もありますが)。

そして、どんな歌曲であっても、上の構成を元に改変したものにすぎません。「水の変態」でいうと、「前唄」の前に「前弾」を挿入し、「手事」を二つに分割し、「手事(1)」と「手事(2)」の間に「中唄」を追加しただけです。

少し語弊のある表現ですが、上の構成は、西洋音楽でいう「三部形式」のようなものです。三部形式(ABA’)と違って、前唄=後唄ではないのですが、これを元に多くの曲が作られていることは確かです。

演奏パートについて

紹介した音源で、二人が演奏しているものと独奏のものがあったので、混乱されたかもしれません。一体どちらが正しいのかと。結論からいうと、どちらも正しいのです。

元々は、「水の変態」は独奏曲として作曲されたものです。ところが、後に二人目の手(旋律)が追加され、二重奏曲としても演奏されるようになりました。こうして、独奏と二重奏の二つの演奏が存在するようになったわけです。

歌詞について

音源を聞いているとき、「歌っていることは分かるが、歌詞の意味が分からない」と思った人もいるのではないでしょうか。能楽や歌舞伎を見ると、台詞の意味がよく分からないという体験をされたことがある方もいらっしゃるでしょうが、それと同じ現象ですね。

水の変態というページを見ると、「水の変態」の歌詞を閲覧することができます。お読みになると分かりますが、文語体であり、ポップスなどの口語体とはかけ離れていることが分かります。

めんどうではありますが、純邦楽の歌曲を聞くときは、歌詞を見ながら聞くことを薦めます。何度か聞くと、何となく歌詞を覚えて来るでしょうから、今度は歌詞を見ず、歌声や歌い回しに着目しながら聞いてみてください。

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