中島義道『不幸論』

2013年12月13日追記: 中島義道については、いくつか記事を書いています。ご興味のある方は、タグ「中島義道」からどうぞ。

久々に中島義道不幸論を読んでみたら、以前読んだときは気にならなかった箇所が目につくようになりました。例えば、こんな文章です。

自分の幸福の実現が膨大な数の他人を傷つけながらも、その因果関係の網の目がよく見えないために、われわれはさしあたり幸福感に浸っていられるのである。それがすっかり見渡すことができたら、この世に幸福はありえないであろう。

たとえ私がいま社会的にとくに非難されることをしていないとしても、間接的に私は数々の害悪に加担している。(中略)
私は彼らに対して何もしていない。そして、ぬくぬくと生きている。このこと自体が負い目である。

中島氏はその例として、彼の主催する「無用塾」に来る生徒や彼の本の読者に対して自分は何もしてやれないこと、アフリカや世界の人々が苦しむ一方で自分は何もしていないことを引きあいに出します。

この考え方は、私にはそれなりに分かる。赤木しげると他者-「反英雄」論その四(2013年9月23日)という記事を書いたとき、私はこうした考えを「自分の人生が他者の犠牲によって成り立っているという責任感」「自分の行いによって他者が犠牲になったという罪悪感」と表現しました。

「それなりに」とつけたのはなぜかというと、こうした考え方を理解はできるものの、中島義道氏が本当にそう信じているのだろうか、と疑問に思ったからです。

もちろん、本の読者や「無用塾」の生徒に対する彼の無力感は理解できますし、彼は本当に「負い目」を感じているのでしょう。私はそれを否定しているわけではない。しかし、自分が見たこともないアフリカや世界の人々に対し、彼は本当に罪悪感など覚えているのでしょうか。

中島義道の著作を読めば分かることですが、彼は「世界」とか「環境」とか「未来」とか、そういった個人を離れた大問題に関わることを徹底的に避けています。彼が哲学をするのも、騒音問題に取り組むのも、本を書くのも、すべては彼個人の思いから来るもので、社会のためなどではありません。

そんな中島氏のことですから、読者や「無用塾」生徒に対して罪悪感を持つのは分かる。しかし、彼と何の関係もない「世界」の人々に罪悪感を覚えているのは、私には大変嘘くさく思えます。本当は罪悪感などないのに、「自分のために犠牲になっている世界の人々に負い目を感じなくてはならない」と、無理に思いこもうとしているように見えます。

もちろん、だからといって『不幸論』全体の内容が否定されるわけではありません。ただ、中島氏は、自分の生活の実感を離れて言葉を語ることに大変な嫌悪感を示す方です。その中島氏が、急に「世界」などという実感に沿わない言葉を発してきたので、私はそれが気になっただけです。

なお、そもそもなぜ「負い目」を感じる必要があるのかというと、これは中島氏の美学によるところが大きいようです。

「俺は好きなことが一生できて幸福だ!」と単純に叫んではならないように思う。好きなことをして名声と莫大なカネを得ているからこそ、そして多くの人はそうしたくてもできないからこそ、彼らはみずからの才能と成功に対して負い目をもたなければならないように思う(これも私の美学である。念のため)。

中島氏には「報われない弱者への憐憫」のようなものがあります。少数の成功者がいる一方で、膨大な失敗者がいるという残酷な現実を変えたい。しかし、変えることはできない。ならば、せめて強者には、自分は膨大な失敗者たちを踏み躙って生きていることを実感してほしい、彼らの思いを無碍にしないでほしい……と考えているように見えます。これは恐らく、中島氏がかつて弱者であったという経験に由来するのでしょう。

私はといえば、この考え方にあまり共感しません。私はニーチェに近い考えで、成功者は卑屈にならず、自分が強者であることを誇りに持ってほしいと思っています。もちろん、強者がいばり散らすのを見るのは愉快ではありませんが……。

私は中島氏の著作を多く読んでおり、考えにも重なる部分が多いのですが、こうした弱者に対する姿勢は真逆です。それがなぜなのか考えています。

2014年1月9日追記: 最近になって、中島氏の考えが少し分かるようになりました。中島氏は、「俺は好きなことが一生できて幸福だ!」と叫ぶこと自体を否定しているのではない。叫ぶのも構わないが、その一方で、自分の発言が多くの失敗者を傷つけることを自覚しなくてはならない、といっているのでしょう。自分の発言によって誰かが傷つくことを自覚しないのは、(中島氏にとっては)鈍感な感受性だからです。

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